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2019

#44 ストイック風人間 (金井伸悟/4年)

                                                                     

                       #44 ストイック風人間 (金井伸悟/4年)                    


「大学生活で力を入れたことは、体育会サッカー部での活動です。筑波大学蹴球部は日本トップレベルの強豪で、サッカー人生の最後に挑戦したいと思い入部しました。しかし、高いレベルについていけず、公式戦も全くない一番下の6番目のチームからスタートしました。レベルの差に自信を失いそうになっていた時に、目標設定を学びました。それまでは目の前の結果だけを見て自信を失っていましたが、しっかりとしたトレーニング計画を立て、着実な自分の成長を評価できるようになりました。翌年からは上のチームに昇格したり、試合に出たりすることができ、実際の成果にもつなげることができました。」




これが、僕が就活でよく使っていたいわゆる「ガクチカ」です。本当はこの後も少しあるのですが、ここで言いたいこととは別のことなので省略します。
面接ではさらに質問され、目標設定技法の詳細やどんな計画を立てたか、などをべらべらとしゃべりました。わりと興味を持ってくれ、すごいね、と言ってくれました。
決して嘘ではありません。
ですが本心では、「こんなこと自慢できることでもなんでもないのにな」とずっと思っていました。



引退まであと1か月。3年半の月日を蹴球部に費やした僕が今思うことは、過ごした日々の尊さでも、近づく終わりへの焦燥感でもなくて、
「俺ってこんなもんなのか」
ということです。



高校までの僕をラベリングするとすれば、「勉強もサッカーもめっちゃ頑張ってるやつ」でした。
いわゆる意識高い系。
小学校~高校までの友達は、きっと僕のことをストイックな奴だと思っていることでしょう。実際自分でもそう思っていたし、そういう自分でありたいと思っていました。
だからチームで一番練習しました。その結果、別に大して上手くはなかったけど、試合にも出続けてこられました。 蹴球部に入っても、僕のやることはほとんど変わっていません。むしろ高校時代より時間のある分、サッカーにかける労力は増えていると思います。


だけど、蹴球部員で僕のことをストイックだという人はあまりいないと思います。
僕が今までストイックだと思っていたこと。

トレーニングに意識高く望む。
グラウンドに少し早く来て入念にアップをする。
練習後に自主練をする。
栄養価を考えて食事をとる。
睡眠時間を十分にとる。
試合の映像を見返す。
サッカーノートを書く。

これらのことは、この場所では何も特別なことではありませんでした。
僕は筑波に来て、蹴球部に入って、今まで僕を守っていたラベルを失いました。

ラベルを剥がされてむき出しになった僕は、背も低い、足も遅い、キックも下手な平凡以下のサッカー選手になりました。自分よりサッカーに本気な奴が山ほどいる。「頑張れる」という最大の武器がほとんど威力を発揮しなくなってしまい、プレーでも違いを見せられず、一番下とその上のチームを行ったり来たり。「追い抜こう」と思っていた上のチームの選手とは一向に差が縮まらず、「俺のほうがうまい」と思っていた下の学年の選手にどんどん追い抜かれ。


そんな状態で、あることに気づきました。


それは、僕はストイックなのではなくて、「ストイック風」だったということです。


人間は、相手のキャラクターに応じてコミュニケーションをとります。「面白い」キャラの人の言葉は面白く聞こえるし、「頭いい」キャラの人の言葉は知的に聞こえます。
逆に「おバカ」キャラの人が知的なことを言ったり、「クール」キャラの人がいきなりはっちゃけなりすると、往々にして「お前どうしたの?」と言われます。
キャラクターに合わせるのは、自分自身もそうです。自分にキャラクターがあれば、それに沿った行動をとっていれば基本的に問題は起きないので非常に楽です。「面白い」人は面白いことを言おうとするし、「頭いい」人は知的なことを言おうとします。


そして「ストイック」な人は、ストイックっぽいことをしようとします。 僕は完全にこれでした。つまり、うまくなるためではなく、「ストイック」というラベルを獲得するためにそれっぽいことをこなしているだけの「ストイック風」人間だったのです。


ラベリングの話をもう少し続けます。
自分自身にラベルを貼ることは、非常に重要な作業です。
なぜなら、人は陳列棚に並んでいる飲み物を選ぶとき、ラベルを見て選ぶからです。白濁の液体が詰まったペットボトルは、ラベルを身に纏ったとき初めて「カルピス」と認識されます。逆に見た目は完全に水だとしても、ラベルに桃のイラストが描いてあれば人は「桃の天然水」だと信じて購入します。中身がどれだけ良質だとしても、ラベルの巻かれていない、得体の知れないペットボトルには誰も見向きもしないでしょう。

人間も同じです。 芸能人も、SNSを席巻するインフルエンサーも、僕たちが見ているのは全部ラベルの部分です。それっぽい肩書きと交友関係と、しっかりとしたキャラ付け。これさえあれば僕たちはコロッとそれを信じ、崇め、耳を傾けます。(語弊のある言い方ですみません。そういった方々への批判ではなく、僕たち一般人を卑下する意図で使っています)


そしてここで最も重要なことは、「中身がどうであれ、ラベルが魅力的なら興味を持ってもらえる」ということです。
僕はよく自主練をしました。中学の時は練習のない日にチームメイトを誘って近所の公園に。高校の時は始業前に黙々とシュート練習、夜もほぼ毎日一番遅くまでグランドに居ました。
その姿をみんな知っていました。
僕はそういう自分が好きでした。
意識高い自分が好きでした。
「俺はストイックなんだ、努力家なんだ、頑張っているんだ」そう自分に信じ込ませるために自主練を続けました。
なぜなら、自主練を一番している人は、ストイックっぽく見てもらえると思っていたからです。別に誰かに誇示したかったわけではないです。僕が一番僕のストイックさを見せつけたかったのは、僕自身でした。


そうして僕は「ストイック」というラベルを身に纏い、サッカー選手として、人間として、堂々と生きてきました。中身は空っぽのまま。 今振り返ると、あのトレーニングで何か成長していたのかというと甚だ疑問です。毎日練習していたシュートはほとんど上手くなりませんでした。多少は悔しかったです。
でも僕はおおむねそれで満足していました。なぜなら、僕にとって自主練は、「うまくなるため」の手段ではなく、自分のアイデンティティを確認するためのものだったからです。皮肉にもその役割に関しては、十分すぎるほどいい働きをしてくれました。


僕のような「○○風」人間の特徴。それは、自己満です。僕たちがやっていることは、中身の入っていないペットボトルに美味しそうなラベルを貼り付け人々に売りつける、まさに詐欺行為です。しかもあろうことか、「プライド」という名のフタを頑丈に締め、本来重要である中身を追加しようともしません。

俺はここまでやっているんだ、
こんなこともできるんだ。
どうだ、面白いだろ。
カッコいいだろ。
ストイックだろ。

何も入っていないことを隠すかのようにラベルを巻いて人前に立ち、自分を優秀だと思い込み、得意げな顔で歩いている。
これがニセモノの人間です。
これが僕です。


本気でプロを目指して、上を目指して、覚悟を持ってサッカーをする人たちと初めて出会い、本当のストイックな人間とストイック風の人間では、やっていることが同じでも質が全く違うことに気づきました。 そして今、環境が自分を変えてくれる、と飛び込んだこの場所で何も変わっていない自分を見て、出てきた言葉が先述した、
「俺ってこんなもんなのか」。


こうやって書いてみるとすごく苦しい大学生活のように見えますが、全くそんなことはありません。筑波大学蹴球部に入って本当に良かったと思っています。
本気でやる人間しかいない集団でサッカーをすることは、僕にとってこのうえなく楽しいです。自分より本気なプレイヤーがいるのはかなり刺激的でした。つらいことも悔しいことも自信を失うこともたくさんあったけど、「練習に行きたくない」と思ったことはこの3年半一度もありませんでした。
トップチームはおろかセカンドチームにも一度も行けなかったけど、与えられた場所で自分のできることをやってきたし、とても充実していました。 そして何より、僕の化けの皮を剥いで、本当の自分の、しょうもない姿をむき出しにしてくれたのは間違いなく蹴球部でした。
ここに来なかったら、僕は一生ストイックの皮をかぶったストイック風人間だったのかと思うと寒気がします。この場所で結果を残すことはできなかったけど、ニセモノの自分の姿に気づいたからこそ、ここから僕は新しい自分のアイデンティティを探しに行くことができるし、それが次のステージで結果を残すための、大きな鍵になると信じています。



みなさんは、自分が「○○風」じゃない、ホンモノの人間だと言い切れますか。
全国の「ストイック風」人間に告ぎます。
その他大勢の「○○風」人間に告ぎます。
県でベスト16くらいのそこそこの成績をおさめている、進学校のサッカー部キャプテンあたりは非常に怪しいです。
僕がそうでしたから。

「ストイック」を演じたってなんの意味もありません。それっぽいことをして満足感に浸ってる間に、ホンモノの人間はどんどん先に進んで、気づいたら取り返しのつかない差になっています。空っぽの中身を隠すためだけのラベルは、とっとと剥がしてもらってください。
人間、そこがスタートラインです。

そして剥がしたいと思うのなら、ぜひ筑波大学蹴球部に入部してください。 僕はスパイクを脱ぐ日まで、ほんのちょっとでもうまくなり続けようと思います。 ホンモノの人間を、目指してみようと思います。


僕の所属するB2チームは残り5試合。ホームでの試合は残り2試合です。 僕のほんのちょっとうまくなった姿と、B2の熱いサッカーをぜひ見に来てもらいたいです。



筑波大学蹴球部4年
社会国際学群社会学類
金井伸悟


【次節予定】 10/19(土) インディペンデンスリーグ2019【関東】2部Aブロック 第12節
B2 vs 明海大学U-22B
14:00kick off
@明海大学浦安キャンパス



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